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ある医療事故判決を聞いて [徒然]

昨日、福島地方裁判所で、注目の判決があった。
皆さんも聞かれたことがあると思うが、「福島県立大野病院 産婦人科医師による過失致死事件」である。

この事件は2004年12月に上記病院において、分娩手術を行なっていた医師が、胎盤を無理に剥離したことが原因となり大量出血をおこして、患者が死亡した。事件後1年を過ぎてから警察は、医師を過失致死罪容疑で逮捕した。

この事件は、医療関係者にとっては見過ごすことの出来ない、大きな問題点を含んでいた。
医師の胎盤剥離という医療行為が、リスクの高い無謀な行為であり、それが患者を死に至らしめたというもの。

この事件後すぐに日本産科学会および日本産婦人科学会は、抗議の声明を相次いで出した。それは「このような予期できない事由により、患者を死に至らしめたことをもって過失致死罪を適用されると、今後リスクの高い医療行為が出来なくなる恐れが高い。また、危険な医療行為の比率が高い産科・婦人科や小児科などの臨床医のなり手がいなくなる」というものであった。

裁判の中で検察側は「胎盤剥離中に大量出血を起こしたことは明らかである。よりリスクの少ない子宮摘出術を選択すべきだった」と主張したが、弁護側は「胎盤剥離術中の出血量は50mml程度であり、これは手術に立ち会っていた麻酔科医の記録からも明白である。また、リスクの少ない子宮全摘出術を選択すべきだったと言うが、胎盤剥離術はリスクの高い術例ではない。今回の事例は予期できない特殊な事由の術例であり、それを認識せず子宮全摘出術を行なえば、多くの女性は子宮を失ってしまう。総合的に判断してよりリスクの少ない術式を選択した結果であって、その点で検察の主張は産科医の医療行為の理解に誤りがある」と述べた。

確かにこの事件以降、産科・婦人科の臨床医を希望する数が激減した。同じく医療行為の難しさから、小児科医のなり手も減少した。

勿論、産科・婦人科や小児科は、昼夜を問わない勤務状況が敬遠されるきらいがあったことは事実である。しかし、この事件以降の毎年の診察科別臨床医数を見れば、その影響は明らかである。

昨日、妻は準夜勤だったので、午後3時過ぎに家を出て行った。それまでの間にこの問題について、二人で話し合った。
妻は「私は産科・婦人科の病棟勤務の経験はないけれど、この医師の行為自体は極めて妥当な判断の上で行なわれたものだと思う。胎盤剥離がリスクが高いからと言って、安易に子宮全摘出を選択すべきだと言う検察の論理は理解できない」と言う。
「あまりに産科・婦人科の医療行為の基本を理解していないのではないか?」とも言っていた。
そして「なくなられた患者の方には気の毒なことだが、このようなことで過失致死罪が適用されることは、医療の荒廃に繋がりかねない」と・・・。

妻は1人興奮しながら話していた。

私も妻の見解には理解する。

手術にはいつもある程度のリスクはついて回る。そのリスクを考慮に入れて、より良い術式を選択していると信じている。まあ、一部の病院それも大学の付属病院であるが、術例の研究のために敢えてリスクの高い術例を選択するケースもあるようではあるが・・・。
それは一部例外的なことであって、本件のような事例ではリスクの回避を出来るだけ行ないながら、それでも特殊なケースでリスクを覚悟しながらその中で一番リスクの少ない術例を選択する、それは極めて当然な行為である。
それにもかかわらず、それをリスクがあるのを知りながら胎盤剥離術を行なったとして「過失致死」に問われたら・・・

この医師は逮捕以来ずっと自宅にこもったままだと言う。無罪判決を受けても、再び産科医師として臨床の現場に立つ気持ちはないと言う。
患者の遺族は「この判決は理解できない。悔しい」と言っている。

裁判所の見解は次のとおりだ。>「この術式はリスクを伴う処置であり、リスクの存在は予測できたが、よりリスクを下げうる手法が現状では存在しないため医師の選択は妥当であり、一連の処置を批判する論拠は存在しない」
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雀翁

難しい問題ですね。
リスクの開示がどこまでされてたかということが問題ではないでしょうか。単にそれは医療側に留まっていたなら問題でしょうし、それが患者側にきちんと説明されていて患者側がそれを了承していたなら、それ以上のことは問えないと思います。
ただ、どれだけ開示がされようと、説明されようと、家族を失った遺族のやり場のない悲しみは理解されるべきだと思います。その悲しみを和らげる方法は、公的なカウンセリングなどに求めるべきであって、報復的な裁判に求めるべきではないと思います。

by 雀翁 (2008-08-21 19:05) 

sarahe

雀翁さん、こんばんは。
本当に難しい問題です。
今の医療界では、患者やその家族に対する術式の事前説明は極めて当り前のことですが、いざ手術をしてみると事前検査では予測・確認できない状態に出会うことは、少なくないと聞きます。その場合には、決めていた術式による手術の続行とそれに代わりうる術式の選択を、短い時間の中で行わなければならないわけです。いかにリスクを少なくするか。

そのような状況になっているなかで、リスクはあるけれどその方法以外に処置できる術式がない場合、医師としてはその行為を行うのが妥当な判断だと私は思います。

緊急を要する特別な事態になった場合、医師は患者家族への報告と意思確認を求めることは、現実的には難しいでしょう。
家族を失った悲しみは理解できますが、今回の件では医師もまた被害者となってしまったことを、よく考えてもらいたいものだと思います。
by sarahe (2008-08-21 20:41) 

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