SSブログ

喧嘩 [ヘルパー2級]


先日、ついにやってしまった。入居者との喧嘩である。
我慢に我慢を重ねたが、どうにも我慢が出来ずに口に出してしまった。
この人は以前施設に入所されていたが、数年前に自立を目的としてグループホームに入居された。
障害の程度は下肢不自由としか分からなかった。

この人が入居しているグループホームでの仕事は、今月から始まったばかりだった。
4月・5月と仕事をしてきたグループホームを持っている同じ社会福祉法人の管轄だが、より障害の程度が重い入居者が4名生活している。

ことの発端は私の介護方法について、いろいろと小言を言いながらケアワーカーにこうして欲しいとかこうすべきだとか、まあ箸の上げ下ろしまで細かく注意するような感じだった。
彼に対しての介護方法はマニュアル化されており、やり方が変更された場合には都度更新されていた。しかし、彼の言う内容は、それから逸脱するもので、我儘と言われても仕方のないものだった。
サービス提供責任者からは彼の特徴を少し聞いていたので、これが彼の問題行動だなとすぐに分かった。

1回目の問題行動の時は、「ハイハイ、分かりました。でも、ヘルパー単独で判断できないので、サービス提供責任者と調整しますから、少し時間を下さい」と答えて、何とか了解してもらった。
その後も彼の我儘な言動は続き、ケアワーカーとして失格であるというようなことまで言いだす有様だった。

3回目の問題行動の時に、遂に堪忍袋の緒が切れた。
彼はこの手の問題行動を起こす常習犯で、それは施設に入所していた時に事なかれ主義でまあまあと言われて見過ごされてきた結果なのである。それが原因で彼を介護する施設職員が、彼の担当から外して欲しいと訴えてきたようだった。それも一人や二人ではなかったようだ。
これが我儘を言っても許される、自分は悪くない、ケアワーカーが悪いのだ・・・このような思いを助長させたのだ。

彼をスタッフルームに呼び、「あなたのケアワーカーや介護スタッフに対する物言いは、あなたの我儘からきているものであり、到底許されるものではない」 「施設にいる時は甘やかされてきただろうが、ここでは4人が共同生活をしており、あなただけを特別扱いはできない」 「あなたは何故このような言動を、ケアワーカーや介護スタッフに対して取るのだろうか?」 「自分の気に入らないことがあれば、それをストレートに言葉に出して相手を傷つけることを何とも思わないのか?」 「もし、私が言ったことに対して、違うということがあれば言って欲しい」
・・・こんなことを話したと思う。

彼は私とほぼ同い年だ。
若いケアワーカーや介護スタッフが殆どなので、同い年のケアワーカーから言われたことは殆どないのだろう。
私が話している間に、何回もその理由を話していた。でも、言い訳でしかなかった。

私が最後に「もし、私がケアワーカーとしてあなたを担当することが嫌なのであれば、あなたは他のケアワーカーに変えてもらえばいい。でも、そうすることで、あなたはあなたの気に入る人、耳障りなことを言わない人、我儘をハイハイと聞いてくれる人しかあなたの周りにはいないことになる。自立した生活を目指して訓練して行こうとするならば、いろいろな人との関わりを持てないことは致命傷になる」と言った。

その時、私は彼の表情を見て驚いた。言い過ぎてしまったか・・・彼の自尊心を踏みにじってしまったか・・・と思った。何故ならば、彼の唇はワナワナと震えており、目は涙で潤んでいたからだ。
これはいけないことをしたと思った。彼を知らず知らずのうちに、上から目線で見ていたのではないかと思った。

彼には「少し言い過ぎた。申し訳ない」と謝った。

そして、彼の障害は下肢不自由だけでなく、精神的なものも抱えているのではないかと考えた。
私が聞かされていたのは下肢不自由だけだったが、このような反応を見せる人は自己愛が強く、それを否定されたり非難されたりするともの凄く反発するか口ごもり拒絶するかする人が多いと聞いたことがあった。

私は彼とのやり取りをまとめて、施設長やサービス提供責任者へ報告した。
私の取った行動は、少し問題だったかもしれない。もし、彼に精神的な問題を抱えているという事実があったならば、私は最もやってはいけない行為を取ってしまったことになる。
そして、そのような事実があったとしたら、その情報をケアワーカーに伝えていなかった責任も、施設管理者やサービス提供責任者にはあるだろう。

その後1週間が経過したが、取り敢えず彼のケア担当から外れ、彼の状況を観察している。
身体の障害だけならまだしも、それに精神的な障害まで伴っていると、そのケアはとても難しくなる。
ケアワーカーになって3か月の新米には、少し荷が重すぎる気がした。
でも、こんなことでめげていたら、介護の世界で禄を食んではいけない。
いろいろなケースを経験することで、一歩一歩成長していくのだろう。
彼には悪いが、良い経験をしたと思っている。
そのうちに彼と蟠りなく話せる日が来ることを願っている。



nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 4

雀翁

難しいですね。
障害を持っている人は、その物理的な傷害ゆえに、気持ちの中で自分自身との大きな葛藤があるように思います(ない人ももちろんいるでしょうが)。そんな方をささえる介護の仕事はほんとうに大変で、それゆえ尊いと思います。
健常者にも、ストレスを誰かにぶつけて解消する人、自分でなんとかする人、また溜め込んで身動きできなくなる人とさまざまです。そんないろんな人とどう接していくか...

どうしてこんなに暮らしにくくなってしまったんでしょう。

by 雀翁 (2009-06-29 13:08) 

すみれ

こんばんは。

雀翁さんの言われるとおり大変なお仕事ですね。
障害を持っていらっしゃる方の心の内は計り知れないものが
あるように思います。

私はよく失敗したりしますが、いつもその度にまた一つ勉強した・・・
と自分に言い聞かせています。
そう思うとちょっと楽になります。(^_^)v


by すみれ (2009-06-29 22:47) 

sarahe

そうですね、雀翁さん。
このギスギスした人間関係、それを乗り越えられない人々、中高年の自殺・・・どうしてなのでしょうね。
日本的経営の基本だった「人を大切に思う」「人は石垣・人は城」「終身雇用」・・・これらが「米国流合理的経営」「成果主義」などを持て囃す人々により、破壊されてしまったからなのか。

介護の世界もそうですね。小泉流の社会保障費の抑制で、介護職は低賃金・不完全な福利厚生・いい加減な人事等々で疲弊し、利用者も自己負担額の増加で厳しい生活を強いられてきたからでしょうか?

彼らの生活を見ていると、本当に可哀想で仕方ありません。
だから、多少のことは大目に見ようとこころに決めていたのですが、我慢できずにやってしまいました。
グループホームの責任者からは、そのくらい言ってもらって良かったと言ってました。でも、「それって貴方の仕事でしょう?」と突っ込みたくなりましたが・・・辛うじて抑えました。
難しいですね。健常者のなかでさえコミュニケーションの取り方が難しいのに、ましてや障害者とのコミュニケーションは。
日々勉強です^^

by sarahe (2009-06-30 22:32) 

sarahe

すみれさん、こんばんは。
障害者のこころの中を読み解くのは、本当に難しいです。
特に自発的な会話のできない障害者は、難しいです。それと身体障害に精神障害を併せ持っているケース。
今月から重度障害者のグループホームで仕事をしていますが、4月・5月に担当していたグループホームでのケアに比べると、数倍の注意と感性が必要だなと感じています。

ケアワーカーの仕事を始めて3か月の未熟者には、少し荷が重すぎます。

明日は休みだったのですが、急遽予定していたヘルパーが出勤できないことになり、代わって私が勤務することになりました。これで6連続勤務となります^^;  キツイです。
by sarahe (2009-06-30 22:41) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

浜田省吾【医龍】 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。